サラリーマンの方なら、年末調整の後に会社からもらう書類として、馴染みがあるのが源泉徴収票です。
でも、年末調整はすべて会社がやってくれるので、源泉徴収票といわれても、
源泉徴収票の役割や味方については、あまりよくわからない…
こういった方も多いのかもしれませんね。
じつは源泉徴収票って、
- 年末調整後に受け取るもの
- 転職時に受け取るもの
上記の二つでは性質が異なっています。
また、転職した場合の源泉徴収票は、どこから、いつくらいに発行してもらえるかご存知でしょうか?
この記事では、法務部・人事部で年末調整の実務を行っていた筆者が、源泉徴収票の基礎知識やよくある疑問について解説しています。
税金に関わる部分で苦手な方も多いかと思いますが、わかりやすくご説明しますので、ぜひ最後までご覧ください。
▼この記事の執筆者▼
源泉徴収票の基礎知識
サラリーマンなら、会社から毎年受け取る源泉徴収票ですが、どのような記載がされていて、どういった意味があるものなのかご存知ですか?
退職時に受け取るものとは何が違うんでしょうか?
まずは源泉徴収票とは、どのようなものなのかをご説明します。
源泉徴収票とは?
源泉徴収票とは、その年にあなたが受け取った、
- 給料や賞与の額
- 支払った社会保険料
- 支払った所得税
上記について記載された書類のことです。
源泉徴収票とは、法定調書の一つであり、日本において、給与・退職手当・公的年金等の支払をする者が、その支払額及び源泉徴収した所得税額を証明する書面。
出典:Wikipedia
源泉徴収票には、異なる2つのパターンがある
じつはまったく同じ書式でも、源泉徴収票には異なる2つのパターンがあります。
具体的には以下のとおりです。
- 12〜1月に会社から受け取る源泉徴収票(毎年いちど受け取るほう)
- 退職等で年の途中に会社から受け取る源泉徴収票
この2つを分けているのは「年末調整を行ったか、行っていないか」であり、
- すでに年末調整を行って所得税等の計算が終わった書類
- 年末調整しておらず、これから所得税等の計算を行う書類
それぞれ、上記のとおりとなります。
したがって、❷の年末調整していない場合は、転職先の年末調整で所得税等の計算をしてもらう必要があるので、転職先への書類の提出が必要です。
源泉徴収票には3つの書式がある
また源泉徴収票には、以下の3つの書式があります。
- 給与所得の源泉徴収票
- 退職所得の源泉徴収票(退職金が出た場合)
- 公的年金等の源泉徴収票(年金受給者の場合)
退職時に発行されるのは❶と❷ですが、❷は退職金が支給された場合のみ発行されます。
源泉徴収の期間について
源泉徴収とは、
上記をひとつの期間として、会社で手続きをおこなうものです。
例えば、2021年12月末に退職して、「12月分給与」という名目で、2022年1月に支給された場合。
2022年中に別の会社へ再就職したのなら、再就職した会社に、前の会社で発行された1月分の源泉徴収票を提出する必要があります。
しかし前の会社が、2021年12月中に給与を支給した場合は、2022年に再就職したとしても、源泉徴収票の提出は不要です。
源泉徴収票が必要になる場面とは
源泉徴収票は、後述する「転職先での年末調整」のほかに、次のような場面で必要になります。
1.住宅などの購入で、ローンを組む場合
住宅などの購入でローンを申し込む際に、収入を証明する書類として源泉徴収票を提出します。
2.確定申告、還付申告をする
会社員の場合は、原則として会社が年末調整をするため。確定申告をおこなう必要はありません。
ただし、以下の場合は会社員でも確定申告を行わなくてはならず、その際は源泉徴収票が必要となります。
- 給与の年収が2,000万円を超える場合
- 副業による収入が20万円を超える場合
また、年間に支払った医療費が10万円以上だった場合は、還付金を受け取ることができますが、年末調整では還付申告を行なえません。
この場合は医療費控除の確定申告が必要となり、その際に源泉徴収票を使用します。
源泉徴収票の見方
以下は令和元年分の源泉徴収票の書式サンプルです。
退職時に受け取る源泉徴収票では、生命保険料などの控除は行っていないため、おもに以下の項目が、記載されているものを受け取ります。
- ① あなたの住所、名前
- ② 給料、賞与といった給与等の種別
- ③ 退職する年に支払われた給与等の額
- ④ 退職する年に控除された(すでに支払った)所得税等の額
- ⑬ 退職する年に控除された(すでに支払った)社会保険料等(雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金)の額
- ㉔ 退職日
- ㉕ 退職した会社名と住所
いっぽうで年末調整後に受け取る源泉徴収票では、上記以外にも該当する欄はすべて記入されているはずです。
年末調整が終わっているかどうかは、「⑤所得控除の額の合計」が記入されていることで判断できます。
源泉徴収票はどこから、いつもらえる?
会社員であれば、源泉徴収票を毎年受け取ります。
どこから、いつもらえる書類なのか確認していきましょう。
源泉徴収票は会社からもらえる書類
源泉徴収票は会社に発行義務があるため、会社からもらえます。
所得税法でこのように定めているのです。
本来、所得税などの税金は、納税者自らが申告して納税することが建前です。(「申告納税制度」といいます)
しかし日本では、会社員の給与からあらかじめ税金を天引きする、源泉徴収が行われています。
源泉徴収が行われることで、
- 国は徴税事務の必要がなく、確実な納付が行われる
というメリットがあるのです。
この制度において、会社は「源泉徴収義務者」となり、
- 源泉徴収せずに報酬を支払ってしまった
- 源泉徴収票を交付しなかった
上記のような場合に、義務違反として罰せられます。
通常は翌年1月31日までに発行。退職時は1ヶ月以内が義務
会社が年末調整を行った場合、翌年1月31日までに「給与所得の源泉徴収票」を2部作成しています。
そして1部を税務署に、もう1部を社員に交付しなくてはなりません。
社員には、12月分の給与明細とともに配布されるケースが多いです。
また退職時は、会社が退職者に対して、
というのが所得税法で決められています。
そのため、源泉徴収票は遅くとも退職後1ヶ月ほどで、会社からもらえるはずです。
もし1ヶ月を過ぎても、会社が発行してくれない場合は、
1ヶ月以内に発行する法的義務があるんですよ!
会社にこのような話をしたうえで、急ぎで発行するように依頼しましょう。
パート・アルバイトでも発行されます
パート、アルバイトの場合でも、源泉徴収票は発行されます。(派遣社員の場合は派遣元から発行されます)
ただし、パートやアルバイトの場合は、源泉徴収の税額が正社員と異なってきます。
毎月の給与から源泉徴収する所得税は、以下の「給与所得の源泉徴収税額表」を使って算出します。
一般的な会社員の場合は、税額表の「月額表」の「甲欄」を使用します。(事前に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出済みの場合)
しかし、パート・アルバイトのように、仕事をした日数や時間で給与を支払う場合は、「日額表」を使用して、契約期間などで税額が変わるのです。
- 2ヶ月以内の雇用契約の場合:「丙欄」
- 2ヶ月以上の雇用契約で「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合:「甲欄」
- 2ヶ月以上の雇用契約で「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していない場合:「乙欄」
上記のように、パートやアルバイトの方でも「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出すれば、天引きされる所得税が安く済みます。
これは、「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出しない方は、
このような前提になっているためです。
そのため、所得税を多めに天引きしており、万が一本人が確定申告をしなくとも、税金を取り損なわない仕組みになっています。
給与所得以外の支払いには、源泉徴収票は発行されない
- 外部の弁護士や司法書士などへの報酬や料金
- 個人事業主への委託業務の契約金など
上記のような、給与所得以外の支払いには源泉徴収票は発行されません。
その代わり会社は、報酬などを支払った翌年の1月31日までに、「支払調書」を作成して税務署に提出します。
支払調書は、会社から本人への提出義務はありませんが、依頼すれば本人にも発行してくれる会社がほとんどです。
源泉徴収票をもらえない場合はどうする?
会社員や公務員などの給与所得者は、毎年1回、年末や年始のタイミングに源泉徴収票を受け取ります。
しかし、給与所得者なのに、源泉徴収票をもらえない場合は問題です。
前述したとおり、会社が源泉徴収票を本人へ交付するのは、所得税法による義務となっています。
会社に対して、
源泉徴収票の交付は法的な義務ですよ!
ということを伝えても、会社が発行してくれない場合は、最寄りの税務署に相談して、「源泉徴収票不交付の届出書」を提出しましょう。
転職時の源泉徴収票の取扱いについて
転職時には必ず受け取ることになる源泉徴収票ですが、受け取りの際に気をつけるべきことは何でしょうか?
ここでは、転職時の源泉徴収票の取り扱いについて確認していきましょう。
退職時に受け取る書類のひとつ
退職時には、会社からいろいろ書類をもらうと思いますが、源泉徴収票もそのひとつです。
会社から退職時に受け取る書類は以下のとおりです。
- 雇用保険被保険者証(自分で保管している場合は不要)
- 雇用保険被保険者離職票-1・2(退職後10日ほどで会社からもらえます)
- 年金手帳(自分で保管している場合は不要)
- 源泉徴収票(退職後1ヶ月ほどで会社からもらえます)
なお、それぞれの書類で発行される期間が異なります。
この期間を確認しておき、会社から送られてこない場合には、必ず催促の連絡を入れましょう。
転職先にはいつ提出する?
入社時に間に合えば、入社時に持参しましょう。
もし入社時に間に合わない場合、源泉徴収票については注意が必要です。
年末調整を行うために、源泉徴収票を提出しますが、年末調整はほとんどの会社で12月に行われます。
そのため11月ごろに会社から、
年末調整の必要書類を提出してください
このような連絡がきますので、遅くてもこのときまでに、源泉徴収票を提出しましょう。
提出する源泉徴収票には、前の会社の社印が押されていなくても問題はありません。
また「退職所得の源泉徴収票」については、転職先に提出する必要はなく、「給与所得の源泉徴収票」のみを提出する形でOKです。
退職金がある場合は、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しよう
会社から退職金が出る場合には、「退職所得の受給に関する申告書」を退職する会社に提出しましょう。
この申告書を提出すれば、勤続年数に応じた減税措置が取られて、源泉徴収額が低くなります。
もし提出していないと、退職金の20.42%が源泉徴収されてしまうのです。
上記の国税庁ホームぺージ記載例を見ると、「退職金の支給額が800万円で、勤続年数が10年2ヶ月の人」の場合に源泉徴収される額は、
- 申告書を提出した場合 = 91,890円
- 申告書を提出しない場合 = 1,633,600円
このように大幅に違ってしまいます。
もし、会社に申告書を出さずに退職金を受け取ってしまった場合は、翌年に確定申告をおこなって、払いすぎた金額を取り戻しましょう。
会社では「退職所得の源泉徴収票」を発行する義務はありますが、「退職所得の受給に関する申告書」について教えてくれるかは、その会社の担当者次第です。
せっかく節税できるわけですから、自分から働きかけて損をしないようにしましょう。
源泉徴収票のよくある疑問にお答えします(FAQ)
ここまでは、源泉徴収票とはどういったものなのかをご紹介してきました。
しかし、実際に使う際には、いろいろ不明な点が出てくるもの。
そんな疑問について、よくある事例をご紹介します。
まとめ:源泉徴収で損をしないために知識を深めよう
今回は、源泉徴収票の役割と、転職で使う際の疑問についてご説明しました。
あんな小さい紙切れ1枚なのに、なかなか奥が深いものですよね。
「退職所得の受給に関する申告書」のように、提出すれば確実に得するのに、会社の担当者が、必ず教えてくれるとは限らない書類も存在します。
ぜひこの記事を参考にして、源泉徴収に関して損をしないために、知識武装をしていきましょう。